大量の出血により、もはや克巳に意識はなかった。
目を薄く開いたままピクリとも動かない克巳。
引きちぎられた右腕からは、止まることなく大量の血が溢れていた。

そんな克巳と克巳の戦利品である右腕を前に、ピクルは合掌をはじめた。
言葉を持たぬピクルの心に、様々な想いが駆けめぐる。

ジュラ紀を生き抜いたピクル。
遠慮など必要のない相手ばかりだった。

超ド級の猛者たちに闘いを挑まれては勝利し、食してきた。
自分より遙かに強大な相手と闘っては、その命を奪い、食してきた。
群雄割拠の時代を一人生き抜いた自分が、時に誇らしくも思えた。

そして現代。
自分より遙かに小さな敵と闘った。
この小さな敵は、爪や牙、毒すらも持たない。
ただひたすらに、小さな手を、小さな脚をぶつけてきた。
ピクルにとっては、全てがあまりにも小さかった。

しかし、その攻撃は強烈無比。
腹部に受けたあの衝撃は、かつてのライバルたちと匹敵するほど強烈なものだった。

小さく、そして強烈な攻撃を受けたピクルには、今回の闘いで克巳が払った犠牲の本質を
理解していた。
あんなに柔らかく、小さなもの(拳)がライバルたちの攻撃と匹敵しているのだ。
想像を絶する努力で手にした武器に違いない。
「努力」 や 「結晶」 などという言葉はピクルにはわからない。
それでも・・・
何一つ言葉を持たなくても、ピクルは理解していた。
目の前の小さな敵は、かけがえのない貴重な宝を差し出してくれたのだと。

これが、合掌の真なる意味。

そして・・・
克巳の戦利品を見下ろしながら、ピクルはゆっくりと合掌をやめた。
そっと立ち上がり、克巳に背を向けるピクル。

空腹のままの帰路

これまでの人生で初めての選択だった・・・