克巳とピクルの闘いが終わった。

血だらけの白道着を身にまとったまま、克巳は担架で運ばれていた。
克巳の体には救援隊による止血が施されている。

克巳の鍛え上げられた肉体を運び出すのは相当キツイのであろう。
3名ともに息を荒げ、額には汗が滴り落ちていた。

その時・・・
1名の救援員が会場の異変に気付く。

5万人が・・・いないッ

神心会門下生により満員だった会場に誰もいないのだ。
驚きの表情で他の2名も会場を見渡す。
確かに、誰一人欠ける事なくいなくなったように見えた。

門下生5万5千人の前で、命がけの闘いを繰り広げた克巳。
その覚悟と誇りは門下生に痛いほど伝わっていた。
誇るべき我らがリーダーを高みから見下ろすことなどできなかった。

全門下生による正座

誰に言われたものでもない。
椅子をたたみ、自ら足元へ正座した。
視線を伏せ、克巳への忠誠心を示した。

会場を見上げる3名の救援隊からは、その様子が見えなかった。

克巳を乗せた担架が通路に入ると、刃牙はじめ、独歩、光成、ペインが待機していた。
意識を失ったままの克巳の姿を見た刃牙は、心から悔いた。
克巳とピクルが闘う前に言ったあの一言。

『 まさか、アンタに先を越されるとはな 』

嫉妬から出た一言・・・
完全なる失言だった。

お調子者のお坊ちゃまだった克巳。
これまで、数多くの局面で失望させられてきた。

しかし、ピクルとの闘いで克巳は気高い開花を見せた。
担架に横たわる克巳の顔が素直に誇らしく思えた。
言うまでもなく、血縁なき父である独歩もまた、刃牙と同じ心境だった。

刃牙たちの前から担架が去ったあと、ペインが光成に尋ねる。

『 ピクルは? 』

小さなため息をつき、光成が答えた。

『 聞こえんかね・・・ 』

『 この、地の底から響くような遠吠え・・・ 』

オオオオオオオオッッッ

克巳への想いから溢れ出たピクルの遠吠えは、地下から地上へと響き渡った・・・